「一年四組の窓から」(あさのあつこ)

「きちんと言葉に出して伝える」こと

「一年四組の窓から」
 (あさのあつこ)光文社文庫

使われなくなった教室
「1-4」で出会った
転校生の杏里と
絵を描くのが好きな一真。
杏里は友人関係のトラブルに
傷ついていた。
一真は父親から
絵をやめるように言われていた。
一真は杏里に、絵のモデルに
なってほしいと頼む…。

中学生に人気のある
現代作家・あさのあつこの一冊です。
杏里・一真、その友人の美穂・久邦の
中学校1年生の物語は、
中1中2用の学習雑誌に
掲載されていただけあって、
完全に中学生向きの作品です。
50を越えたおじさんには
ややしんどいものがありました。
本作品を取り上げたのは、
テーマがシンプルかつ
ストレートであり、
中学校1年生にとって得られるものが
大きいと感じたからです。

杏里が抱えている苦しみは、
「転校」という形で人間関係から
逃げ出してきたことなのです。
些細なことが原因で
関係を維持できなくなる
現代の中学生を
見事に表現しているといえます。

一真の直面している問題は、
父親の無理解と過干渉。
一真が絵を描くことに猛反対し、
進学についても理想を押しつけます。
父親がなぜ「絵」を嫌うのかは
終盤に明らかにされます。

この二人の鬱屈は、
「きちんと言葉に出して伝える」ことで
解決されていきます。
それだけではなく、
杏里と母親の微妙なすれ違い、
母親と祖母の気持ちのずれ、
久邦と美穂、美穂と一真の
それぞれの片思いなど、
すべてに繋がっているのです。
これこそが本作品のテーマなのです。

日本という国は
世界に例を見ない「忖度社会」です。
直接的に物事を話す人間は疎まれ、
無言のうちにお互いの気持ちを
察するのが美徳とされてきました。
その傾向は情報化社会に移行し、
薄まるどころか
ますます強まっているように感じます。
子どもたちの社会もまた
強大な「同調圧力」に
さらされているのです。

本作品は
そのような人間関係のあり方に、
明確に「NO」を突きつけています。
話さなければ伝わらない、
伝わらなければ何も始まらない。
これが、
空気を読むことに汲々としている
子どもたちの意識を変え、
そして人間関係におびえている
弱い立場の子どもたちの
心の支えになり得ると思うのです。

中学校1年生にしては
高校生並みに大人びている
4人の人物像や、
地方の中学校ほど「緩い」という描写等、
中学校に勤務している私からすれば
違和感のある設定が目立つのですが、
それを差し引いても、本書の魅力は
なお大きなものがあります。

(2019.5.16)

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